このページでは,共同研究者と一緒に開発した批判的思考力(クリティカルシンキング)の育成を目指す算数・数学授業を紹介します。
※の論文中には学習指導案も掲載されています。
中学校第3学年
<テーマ>
先生にエアコンをお薦めしよう!
<数学>
一次関数を用いた数学的解決
<概要>
これまでに開発した授業実践「自動車の購入」・「携帯電話の購入」に引き続き,社会的オープンエンドな問題の問題カテゴリ「選択」に該当する実践の第3弾と言える。本授業実践は,問題設定に「年間電気代」だけでなく「1時間あたりの電気代」も意図的に加えたことで,数学的意思決定の自由性をより高めた点に特徴がある。子どもたちそれぞれの価値観に基づいて構成した数学的モデルを相互に鑑賞し合い,共有することは自分には無かった視点が新たに提供されたり,他者が大切にする価値観を知ったりすることができる。本授業実践では,他者の提案に目を向け,意識し,共感したり,自己修正を行ったりする批判的思考力の発揮を期待したい。
<関連論文>※
圓岡悠・服部裕一郎(2023)「中学校数学授業における算数・数学の問題発見・解決の過程の具現化―「日常生活の事象の数学化」及び「活用・意味づけ」の過程の強調―」,日本数学教育学会誌 数学教育,105(3),pp.2-14.
高等学校2学年
<テーマ>
マヨネーズの絞り口を提案しよう!!
<数学>
三角比,円に内接する多角形,面積,体積,対称性など
<概要>
本実践では高校数学授業においてロールプレイ形式を採用し,生徒には企画社員という役割を与え,「マヨネーズ会社における商品開発」という文脈を設定した。顧客に対して「より良いサービスを提供する」ため,生徒には新製品のマヨネーズの絞り口(二重構造も可)を提案してもらう。「より良い」の解釈は多様であり,そのサービス提供のため,個人がそれぞれの価値観のもとで高校数学までの既習知識を駆使した意思決定を促す授業展開である。マヨネーズの消費量を増やすために絞り口の面積をできるだけ大きくしようとしたり,デザイン性を高めるために図形の対称性を利用したりするなど,生徒それぞれがさまざまな価値観に基づいて数学モデルを構成していた。また,このたびの実践ではルーブリックを用いることで生徒の発揮した批判的思考力を分析的に評価することにも試みた。
<関連論文>※
服部裕一郎・井上優輝・松原和樹・袴田綾斗・久冨洋一郎(2023)「批判的思考力の育成と評価を志向した高校数学における教材の開発とその実践―社会的オープンエンドな問題「マヨネーズの絞り口を提案しよう」を通して―」,全国数学教育学会誌『数学教育学研究』,第28巻,第2号,pp.77-97.
中学校第3学年
<テーマ>
携帯電話の購入―先生にオススメの料金プランを提案しよう―
<数学>
一次関数を用いた数学的解決
<概要>
新しいスマホの購入を考えている先生に対し,オススメの料金プランを提案する設定。本授業実践では,問題解決において,料金プランの安さという要素のみならず,より複眼的な考察を行わせるところに特徴がある。授業においては,自身の価値観に基づいた数学的モデルの構成による社会的判断を促す場面や,他者の価値観を批判的にみて最終的な判断決定を促す場面を意図的に設定した。また,問題解決のための変数に「データ容量」を付加することによって,現実世界により忠実なものとしたという意味で,教材の真正性を高めた。それゆえ,生徒の社会的価値観もより顕在化しやすくなる。教師に携帯電話を勧めるという社会的文脈の中で,数学を方法として,より良い納得解を提出させる学習場面を設定することで,生徒の批判的思考の涵養を目指す。
<関連論文>
田中勇誠・服部裕一郎(2020)「中学校数学授業における社会的オープンエンドな問題の開発とその実践―生徒の批判的思考力の涵養を目指して―」,日本数学教育学会誌 数学教育,102(11),pp.2-11.
小学校第5・6学年(複式学級)
<テーマ>
自動車の購入―先生に合うオススメの車を考えよう―
<数学>
表を用いた数学的解決
<概要>
担任の先生は新しい自動車の購入を考えている。クラスのみんなで先生に合うオススメの車を考えようという設定。議論の中で選択肢は「ガソリン車」・「ハイブリッド車」・「電気自動車」の3つにしぼられた。先生は敢えて「一番安いからガソリン車だな」と提案する。生徒達はどのような代替案(クリティカルシンキング)を出すだろうか。
<関連論文>※
服部裕一郎・松山起也(2018)「批判的思考力の育成を目指した算数科授業の開発と実践―小学校高学年児童達の批判的思考の具体に焦点をあてて―」,全国数学教育学会誌『数学教育学研究』,第24巻,第2号,pp.97-108.
高等学校第2学年
<テーマ>
リーグ戦の対戦計画-よりよい対戦計画とは!?
<数学>
数学的帰納法
<概要>
「リーグ戦のよりよい対戦計画」とはどのような対戦計画であろうか。議論の中で提案された「どのチームも試合が連続することのない対戦計画」について,数学的帰納法を用いた解決を試みる。しかし,この解決方法で導いた対戦計画も現実的にベストな対戦計画という訳ではない。生徒達は更なる「よりよい」対戦計画の作成に向け,検討を重ねる。
<関連論文>※
井上優輝・服部裕一郎・松原和樹・袴田綾斗(2018)「組合せ論における諸問題を教材とした クリティカルシンキングを育成する数学授業の開発 ―高校数学における授業実践「リーグ戦の対戦計画」を通して―」,全国数学教育学会誌『数学教育学研究』,第24巻,第1号,pp.99-120.
中学校第2学年
<テーマ>
自動車の購入―先生に合うオススメの車を考えよう―
<数学>
表・一次関数・グラフ
<概要>
担任の先生は新しい自動車の購入を考えている。クラスのみんなで先生に合うオススメの車を考えようという設定。議論の中で選択肢は「ガソリン車」・「ハイブリッド車」・「電気自動車」の3つにしぼられた。先生は敢えて「一番安いからガソリン車だな」と提案する。生徒達はどのような代替案(クリティカルシンキング)を出すだろうか。
<関連論文>※
服部裕一郎(2017)「中学校数学における批判的思考力を育成する授業の開発研究―批判的数学教育の視座に依拠して―」,日本数学教育学会第5回春期研究大会論文集,pp.209-216.
高等学校第1学年
<テーマ>
新しい定理をつくろう!-n進法における数の性質―
<数学>
整数の性質・n進法
<概要>
「3桁の整数Nの各位の数の和が9の倍数であるとき,Nは9の倍数である」
これは10進法における有名な倍数判定法である。この原問題を出発点として,条件変更による命題づくりを目指す。n進法における倍数判定法について,RLAの手法を用いて子ども達のクリティカルシンキングを育む。
<関連論文>
服部裕一郎・井上優輝(2015)「RLAによるクリティカルシンキングを育成する数学科授業の開発―子ども達による査読評価活動を通して―」,全国数学教育学会誌『数学教育学研究』,第21巻,第2号,pp.1-12.
中学校第3学年
<テーマ>
校舎の高さを求めよう!
<数学>
相似の利用
<概要>
自分達の学校の校舎の高さを求めることを試みる。必要なデータを実際に収集し,そのデータを基に,各グループそれぞれの方法で校舎の高さを求める(数学的に解決する)訳であるが,誤差をどのように扱うかが問題である。実際に自分で計算して出した結果をグループ内の他の人の結果と比べ,相違点がある場合,なぜそのような結果になったかを検討する。また,目測での高さと計算結果が大きく異なる場合,なぜそのようになったかを議論する。最終的には,各グループで出した結論についてその妥当性を検証した結果の問題点,改善点をまとめ,グループごとに発表する。
<関連論文>
服部裕一郎・井上優輝(2015)「数学教育におけるクリティカルシンキングを育成する学習指導の在り方―中学校3年「相似の利用」の授業実践を通して―」,高知大学教育学部研究報告第75号,pp.83-96.
中学校第3学年
<テーマ>
何をもって乱数といえるのか?
<数学>
乱数
<概要>
乱数とは「でたらめな数」のことである。では,「でたらめな数」とは一体どのような数なのか?例えば,自分で「でたらめ」につぶやいた数の列は乱数といえるのか?本授業では,何をもって乱数といえるのかについて,数学的な探究を行う。実際に自分たちで呟くことによって作った数字の列と,正二十面体のサイコロを振って作った数字の列を比較して見えてくるものは何か?混沌として展開されていく授業の中で,子ども達のクリティカルシンキングを育む。
<関連論文>
服部裕一郎・岩崎秀樹(2013)「数学教育におけるクリティカルシンキング育成のための教育課程の開発研究―数学科における総合的な学習の時間の授業実践―」,全国数学教育学会誌『数学教育学研究』,第19巻,第2号,pp.63-71.